ボトックス注射は、顔のしわ改善だけでなく、様々な部位への適用が可能です。
筋肉の動きを抑制する作用を利用して、エラの張りを解消し小顔に見せたり、発達した肩の筋肉をほぐして肩こりを緩和したりする効果も期待できます。
また、汗腺の働きを抑える作用もあるため、ワキの多汗症治療にも用いられます。
このように、ボトックス注射は美容目的から医療的なお悩みの改善まで、幅広い適用範囲を持つ施術です。
眉間にできる縦じわは、物事に集中している時や、スマートフォンを見ている時などに、無意識のうちに眉をひそめることで現れる代表的な表情じわです。
この動きを繰り返すことで、表情を作っていない時にもしわが刻まれ、不機嫌そうな印象や厳しい印象を与えてしまうことがあります。
ボトックスを眉間のしわの原因となる皺眉筋や鼻根筋に注入すると、これらの筋肉の過剰な収縮が抑えられ、しわが寄りにくくなります。
これにより、意識しなくても自然で優しい表情を保ちやすくなる効果が期待できます。
定期的に施術を行うことで、将来的に深いしわが刻まれてしまうのを予防する目的でも行われます。
おでこ(額)にできる横じわは、驚いた時や目を見開く癖によって、額の筋肉である前頭筋が収縮することで生じます。
また、加齢によるまぶたのたるみを補うために、無意識に眉を上げて物を見ようとすることも原因の一つです。
この前頭筋にボトックスを注射することで、筋肉の過剰な動きを抑制し、横じわが寄るのを防ぎます。
これにより、滑らかで若々しい印象の額を目指すことが可能です。
ただし、注入量や部位を誤ると、眉が下がってまぶたが重く感じられたり、表情が硬くなったりする可能性があるため、医師の慎重な診断が求められます。
目尻のしわと同時に施術を受けることで、目元全体の印象を改善することもできます。
エラが張って見える原因が、骨格だけでなく、物を噛むときに使う「咬筋」という筋肉の発達にある場合、ボトックス注射が有効です。
無意識の歯ぎしりや食いしばりの癖は、咬筋を過剰に鍛えてしまい、エラが張る原因となります。
この咬筋にボトックスを注射することで、筋肉の緊張を和らげ、使われなくなった筋肉を徐々に萎縮させます。
これにより、フェイスラインのもたつきが解消され、すっきりとしたシャープな小顔効果が期待できます。
特に40代以降でたるみが気になる場合にも適しています。
施術に必要な薬剤の量は筋肉の大きさによって異なり、片側40単位、合計80単位程度の量を目安に注入されることがあります。
あごの先端にできる梅干しのような凹凸のしわは、口を閉じる際などに、あごの筋肉であるオトガイ筋に無意識に力が入ることで生じます。
このオトガイ筋にボトックスを注入すると、筋肉の過剰な緊張が緩和され、表面が滑らかになり、きれいなフェイスラインが形成されます。
このほか、口角を下げる筋肉の働きを弱めて自然に口角を上げたり、笑った際に歯茎が過度に見えるガミースマイルを改善するために上唇挙筋へ注入したりする施術も可能です。
慢性的な肩こりや首こりの一因として、首から肩、背中にかけて広がる僧帽筋という筋肉の過剰な緊張や発達が挙げられます。
この僧帽筋の上部にボトックスを注射すると、筋肉の緊張が和らぎ、血行が促進されることで、つらい肩こりの症状が緩和される効果が期待できます。
また、筋肉の盛り上がりが解消されることで、首から肩にかけてのラインがなだらかになり、首を長く見せたり、鎖骨を際立たせたりする美容的な効果も得られます。
ボトックスには、筋肉の動きを抑制するだけでなく、汗を出す指令を伝える神経伝達物質の働きをブロックする作用もあります。
この作用を利用し、汗腺が集中する脇に注射することで、エクリン汗腺の活動を抑制し、過剰な汗の分泌を抑えることが可能です。
これは原発性腋窩多汗症の治療法として保険適用も認められている方法です。
汗の量が減ることで、衣類の汗ジミや、汗による臭いの悩み軽減にもつながります。
ワキガの根本治療ではありませんが、汗が細菌と混ざることで発生する臭いを抑える効果は期待できます。
特に汗の量が増える夏に人気があり、手のひらや指の汗(手汗)で悩む人にも適用されることがあります。
ふくらはぎが太く見える原因には脂肪と筋肉の2種類があり、特にスポーツ経験者やヒールをよく履く人では、筋肉(腓腹筋やヒラメ筋)が発達しているケースが多く見られます。
ダイエットやマッサージでは細くしにくい筋肉太りのふくらはぎに対して、ボトックス注射は有効な選択肢です。
発達したふくらはぎの筋肉にボトックスを注入することで、筋肉の動きを抑制し、徐々にボリュームを減少させていきます。
これにより、いわゆる「ししゃも脚」と呼ばれる筋肉の盛り上がりが解消され、すらりとした女性らしい脚のラインを目指せます。
日常生活における歩行などへの大きな支障はなく、ダウンタイムもほとんどないため、手軽に美脚を目指したい人に適した施術です。

ボトックス注射で使用される薬剤は、一般的に「ボツリヌストキシン製剤」と呼ばれ、複数の種類が存在します。
各製剤は、製造しているメーカーや製造国、そして日本の厚生労働省による承認の有無などが異なります。
安全性や効果の持続性、料金に違いがあるため、施術を受ける前には、どの製剤を使用するのかをクリニックで確認し、それぞれの特徴を理解した上で選択することが求められます。
代表的な製剤としては、アラガン社製の製品や韓国製の製品などが挙げられます。
アラガン社が製造する「ボトックスビスタ®」は、日本国内で唯一、厚生労働省から眉間の表情じわと目尻の表情じわの治療目的で製造販売承認を取得しているボツリヌストキシン製剤です。
世界中で長年にわたる使用実績があり、有効性や安全性に関する豊富な臨床データが蓄積されています。
また、製造や保管、輸送における品質管理が徹底されており、高品質な治療が期待できます。
韓国では複数のメーカーがボツリヌストキシン製剤を製造しており、これらはアラガン社製品のジェネリック医薬品(後発医薬品)に位置づけられます。
韓国製の製剤は、比較的安価な料金で提供されていることが多く、費用を抑えたい場合に選択肢となります。
中でも「コアトックス」のように、繰り返し施術を受けることで体内に抗体が作られ、効果が弱まるリスクを低減するために、原因の一つとされる複合タンパク質を取り除いて製造されている製品もあります。
ただし、これらの製剤は日本の厚生労働省では未承認の医薬品であり、国内の公的な救済制度の対象外となります。
使用する際は、医師から十分な説明を受け、リスクを理解した上で選択する必要があります。
「ボトックスS」という名称は特定の製剤を指すものではなく、クリニックによっては「スキンボトックス(マイクロボトックス)」や、特定の製剤を指す独自の呼称として用いられる場合があります。
スキンボトックスとは、筋肉層ではなく皮膚の浅い層(真皮層)に、ごく微量のボトックスを広範囲に注入する手法です。
この方法では、筋肉の動きを大きく止めることなく、皮脂腺の働きを抑えてテカリやニキビを改善したり、立毛筋に作用して毛穴を引き締めたり、肌のハリを出す効果が期待できます。

ボトックス注射は、安全性が確立された美容施術の一つですが、医療行為である以上、副作用やリスクが伴う可能性はゼロではありません。
考えられる危険性としては、注射に伴う痛みや内出血、腫れといった一時的な症状から、薬剤の作用による表情の不自然さなど、仕上がりに関するものまで様々です。
施術を受ける前には、これらのリスクについて十分に理解し、万が一の際に適切な対応がとれるよう、信頼できるクリニックを選ぶことが求められます。
ボトックス注射では、非常に細い専用の針を使用するため、痛みは比較的軽いとされています。
多くの人が「チクッとする程度」「虫に刺されたような感覚」と表現するように、我慢できる範囲の痛みであることがほとんどです。
しかし、痛みの感じ方には個人差があり、特に目の周りなど皮膚の薄い部位は痛みを感じやすい傾向にあります。
痛みが不安な場合や、痛みに弱い体質の人には、施術前に注入部位を冷却したり、表面麻酔である麻酔クリームを塗布したりすることで、痛みを大幅に軽減することが可能です。
カウンセリングの際に、痛みに対する不安を正直に医師に伝え、麻酔の使用について相談しておくと良いでしょう。
注射針が皮膚の下にある毛細血管に偶然あたってしまうと、施術後に内出血が起こることがあります。
また、注射による刺激で、注入部位に腫れや赤みが生じる場合もあります。
これらの症状は、通常は数日から長くても2週間程度で自然に吸収され、消えていきます。
内出血が生じた場合も、ほとんどはファンデーションやコンシーラーで隠せる程度です。
施術当日の飲酒や激しい運動、長時間の入浴は血行を促進し、内出血のリスクを高める原因となるため、控えることが推奨されます。
ボトックスが効きすぎたり、注入する部位や深さを誤ったりすると、表情が硬くこわばる、笑顔が引きつるなど不自然な仕上がりになるリスクがあります。
例えば、おでこへの注入量が多すぎると、眉が動かなくなり能面のような表情になったり、眉が下がってまぶたが重く感じられたりすることがあります。
逆に、眉の外側だけが吊り上がってしまう「スポックブロー」と呼ばれる状態になるケースも失敗例として挙げられます。
このような結果は、主に医師の技術力や解剖学的な知識の不足によって生じます。
自然な仕上がりを目指すためには、経験豊富な医師を選び、過剰な効果を求めず、適切な量を注入してもらうことが重要です。
ボトックス注射後、特に眉間やおでこといった部位に施術した場合、これまで無意識に使っていた筋肉の動きが抑制されることで、頭が重く感じられたり、頭痛や倦怠感が生じたりすることが稀にあります。
これは、筋肉のバランスが変化したことに体が慣れていないために起こる一時的な症状です。
通常、これらの違和感は時間の経過とともに薬剤の効果が安定してくると自然に解消されます。
ごく稀ですが、体質によってはアレルギー反応として、発熱や吐き気、むくみといった症状が現れる可能性も否定できません。
施術後に体調の異変を感じた場合は、我慢せずに速やかに施術を受けたクリニックへ連絡し、医師の診察を受ける必要があります。
人間の顔や体は、元々完全な左右対称ではありません。
筋肉のつき方や、日頃の表情の癖などによって、左右で筋肉の強さや大きさが異なるのが普通です。
この左右差を考慮せずに、機械的に同じ量のボトックスを注入してしまうと、効果の現れ方に差が出て、仕上がりが左右非対称になることがあります。
例えば、片方の眉だけが上がりすぎる、口角の上がり方が左右で違う、エラの縮小効果に差が出るといったケースが考えられます。

ボトックス注射の費用は、自由診療のためクリニックによって料金設定が異なります。
料金は主に、施術する部位、使用する製剤の種類、そして注入する薬剤の量によって決まります。
例えば、眉間や額、目尻といった表情じわの改善は、1部位あたり2万円から5万円程度が相場です。
エラの張りを抑える小顔目的の施術では、より多くの注入量が必要となるため、4万円から10万円程度が一般的です。
料金体系には、カウンセリング料や診察料が含まれている場合と別途必要な場合があるので、総額でいくらかかるのかを事前に確認することが大切です。

ボトックス注射を受けることを決めたら、施術当日の具体的な流れや、施術後の経過を良くするために気をつけるべき注意事項を事前に把握しておくことが大切です。
カウンセリングから施術完了までのステップと、効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小限に抑えるためのアフターケアについて知ることで、当日の不安を和らげ、安心して施術に臨むことができます。
正しい知識を持つことが、満足のいく結果への第一歩となります。
まず、電話やクリニックのウェブサイトからカウンセリングを予約します。
来院当日は、問診票を記入した後、医師によるカウンセリングが行われます。
ここで、自身の悩みや希望を具体的に伝え、ボトックス注射が適しているか、期待できる効果やリスクについて詳しい説明を受けます。
施術内容に納得できたら、同意書にサインし、料金の支払いを済ませます。
その後、施術室へ移動し、注入部位の最終確認とデザインを行います。
メイクをしている場合はクレンジングで落とし、施術部位を消毒します。
必要に応じて麻酔クリームを塗布し、冷却しながら極細の針でボトックスを注入します。
施術時間は部位にもよりますが5〜10分程度と短時間で終了します。
ボトックス注射の施術後は、注入した薬剤が目的の筋肉に正確に作用し定着するまで、いくつかの行動を控える必要があります。
特に施術当日は、血行を促進する行為を避けることが重要です。
具体的には、アルコールの摂取、サウナや長時間の入浴、激しい運動や筋トレなどは、体温を上昇させ血流を増加させるため、内出血や腫れのリスクを高める可能性があります。
また、施術部位を強くこすったり、マッサージしたりする行為も、薬剤が意図しない範囲に拡散してしまう恐れがあるため、最低でも数日間は避けましょう。
洗顔や化粧、シャワーは当日から可能ですが、注入部位には優しく触れるように心がけてください。
ボトックス注射の効果の持続を良くするためには、日頃の過ごし方も影響します。
まず、効果の持続期間中は、注入部位の筋肉を過剰に使わないように意識することが有効です。
例えば、エラに注入した場合は硬い食べ物を頻繁に噛む習慣を避け、眉間に注入した場合はスマートフォンを見る際に眉をひそめないよう注意するなどです。
また、ボツリヌストキシンは熱に弱い性質を持つとされるため、施術後1週間程度はサウナやホットヨガといった体を過度に温める行為を避けるのが無難です。
最も効果的なのは、効果が完全に切れる前の、少し筋肉の動きが戻ってきたタイミングで継続して施術を受けることです。

ボトックス注射を初めて検討する際には、効果の現れ方や持続期間、他の施術との違いなど、様々な疑問が浮かぶものです。
ここでは、カウンセリングでよく尋ねられる質問とその回答をまとめました。
しわ治療でよく比較されるヒアルロン酸注入は、溝を埋めてしわを目立たなくさせるのに対し、ボトックスは筋肉の動きを止めてしわを寄りにくくするという違いがあります。
たるみ治療で用いられるレーザー治療など、他の施術との併用が可能かどうかも含め、疑問を解消していきましょう。
ボトックス注射の効果は、施術直後から現れるわけではありません。
個人差はありますが、通常は注入後2~3日目から徐々に効果が出始め、多くの場合1週間から2週間ほどで安定します。
効果の持続期間も個人差や施術部位、注入量によって異なりますが、一般的には3ヶ月から4ヶ月程度が目安です。
長い人で6ヶ月ほど効果が続くこともあります。
効果は永久ではなく、時間の経過とともに筋肉の動きが徐々に戻ってきます。
そのため、効果を持続させたい場合は、4ヶ月から6ヶ月の間隔で定期的に施術を受けることが推奨されます。
ボトックス注射をやめたことによって、施術を受ける前よりも状態が悪化したり、しわがひどくなったりすることはありません。
ボトックスの効果が切れると、抑制されていた筋肉の動きが元に戻るだけで、時間をかけてゆっくりと施術前の状態に戻っていきます。
むしろ、ボトックスを注入していた期間は、しわの原因となる表情筋の動きが止まっているため、その間のしわの進行や深化を防いでいたことになります。
安全上の理由から、ボトックス注射が受けられない、あるいは慎重な判断が必要なケースがあります。
まず、妊娠中・授乳中の人、または妊娠の可能性がある人は施術を受けられません。
過去にボツリヌストキシン製剤でアレルギー反応を起こしたことがある人も同様です。
また、重症筋無力症やランバート・イートン症候群など、全身の神経や筋肉に影響する疾患を持つ人は禁忌とされています。
特定の抗生物質や筋弛緩薬を服用中の場合も、作用が増強される可能性があるため医師への申告が必要です。
緑内障の一部(閉塞隅角緑内障)の人も注意が必要です。
繰り返し施術を受けているうちに抗体ができ、効果が出にくくなることも稀にあります。
ボトックス注射の大きなメリットの一つは、ダウンタイムがほとんどない点です。
メスを使用する外科手術とは異なり、注射のみで行われるため、体への負担が少なく、施術後の回復期間が非常に短いのが特徴です。
施術直後に注射部位に小さな針跡や若干の赤みが見られることがありますが、これらは数時間で目立たなくなります。
まれに内出血が起こることもありますが、1~2週間で自然に消え、その間はメイクで十分にカバーできる程度です。
腫れや強い痛みを伴うことはほとんどなく、施術当日から洗顔やメイク、シャワーも可能で、すぐに普段通りの日常生活に戻ることができます。

ボトックス注射は、ボツリヌストキシンという成分の筋弛緩作用を利用し、表情じわの改善、エラの縮小による小顔効果、肩こりの緩和、多汗症の治療など、多岐にわたる美容上の悩みに対応する施術です。
使用される製剤には、厚生労働省承認のアラガン社製「ボトックスビスタ®」や、比較的安価な韓国製のものなど複数の種類があり、それぞれに特徴があります。
副作用として、内出血や腫れ、表情の不自然さといったリスクも存在するため、施術を受ける際はこれらの情報を十分に理解することが不可欠です。
ダウンタイムが短く手軽に受けられる一方で、満足のいく結果を得るためには、信頼できるクリニックを選び、経験豊富な医師によるカウンセリングを受けることが求められます。
2008年に自治医科大学医学部を卒業。2010年に大阪府立急性期総合医療センター産婦人科に勤務後、2014年に大阪府障害者福祉事業団すくよかで医療部長を務めました。2015年から大阪府健康医療部で地域保健課主査を歴任し、2017年から愛賛会浜田病院産婦人科に勤務。2020年より某大手美容外科で働き、2021年には小倉院と心斎橋御堂筋院の院長を務めました。2023年からはルヴィクリニック院長に就任しています。
【資格・所属学会】
ボトックスビスタ® 認定医、
ジュビダームビスタ® 認定医、
ジュビダームビスタ® バイクロス 認定医、
日本美容外科学会(JSAS) 正会員、
日本産科婦人科学会 会員、
日本産科婦人科学会 専門医、
日本医師会認定産業医、
母体保護法指定医